ワインの美味しさと熟成の関係
昔から熟成するととてつもない姿を現すワインと熟成しても意外と変化が少ないワインがある。
昔のワインは現在のように醸造の知識も栽培に対する知識も確立されていなかっただけに、それぞれの作り手たちが自分たちなりに秘伝とも言える作り方があり、作り手によってかなり作り方も違っていたために、結果長熟系のワインが多く熟成の力が大切だったのだ。ところが面白いことにフランスなどでは熟成したワインよりも比較的若いワインを楽しむ傾向があり、熟成したワインが値上がりすることはなく出荷当初の価格で販売されていた経緯がある。つまり売れなかったワインがそのまま蔵に置いてあったのだ。こういったことからも結果長熟系のワインが出来た理由にもなっていたと考えられる。
1990年になるとルロワが自然派ワインに傾倒し、ブルゴーニュなどで言われていた農薬や化学肥料による土壌汚染によって疲弊していく土壌改良が一つの問題になってくる。またアジア圏を中心とする世界的なワインブームで、質の良いワインを作れば売れると言うこともあり徐々に質的な向上が図られ、蔵に残っていたワインのほとんどが買われることで徐々に早熟系のワインが求められるようになってくる。評論家も早熟系の質の良いワインを評価する傾向もあり、イスラエル、アメリカなどでは醸造学が飛躍的に発展しフランスワインの秘密を科学的に実現してしまうような最新機器も登場してくる。自然回帰しているヨーロッパと最新設備によって作り出されるアメリカやオーストラリアなどのワイン、真逆の傾向が生まれてくるのである。当然例外はある。だから自然派といえどもヨーロッパとアメリカとでは基本的な考え方が違うのだ。南アフリカなどは元々法律で化学肥料や農薬の使用が禁止されているために若手の多くはヨーロッパ指向と考えても良いと思う。
さて酸が強すぎたりごつごつとした感じのタンニンなど、昔のワインは熟成の力を借りることで一つの完結した姿になっていった。実は現代の作り手でもこの様な趣向のワインがある。できたてのワインは荒々しさがあったり、化粧っぽかったり、あまり質感が良くないと感じたり、そんなワインでも数年から10年以上たつと劇的に姿が変わり魅力的になる。全ての生産者が熟成の力を計算出来ているのかは分からないが、、。
逆に現代の若手など、非常に質感の良いワインはリリースしてわりとすぐに飲めるようになり、あまりのもの質感の高さに驚かされる。昔に比べ熟成の期間が短く数年で更に良くなるが、それ以上置いておいてもそれ以上の姿は見せてくれない。早熟系のワインで熟成したときに激変する作り手は今ではかなり少なくなってしまっている。
葡萄のクローン、栽培法、樽、収穫時の糖度、酸度、成熟度、蔵の酵母、カビ、醸造法、蔵の環境など他にもいろいろな要素が複雑に絡まっている問題だけに何故そうなるのかは解明することは難しい。
ただ最近の自然派ワインのように早熟系に作られ、酸化防止剤が少ないようなワインでも、リリースして1〜2年では完全に姿がまとまっているとは限らず、数年の熟成が必要な場合もある。ただそういったワインの多くは全体的なまとまりは出たとしてもそれが複雑さに結びつくかと言えばあまりないのが現実だ。クロ・ド・ティエ・ブッフのようなワインはまず滅多に無いのだ。
ただ現代のように自然のものが少なくなり、現在認められた添加物や科学的な薬品など、遺伝子組み換えされた作物など将来的には実は問題があったと言うことも当然あるために何を信じて良いか分からない。福島の原発の問題で、回遊魚、周辺の作物、牛乳などかなり問題のある報告も多く、今自然派ワインが持て囃されている意味合いも分かるのだが、ワインの世界だけにそれを求めてもそれはあまり意味がない。やはりワインは私たちに生命の力強さとなる力を与えてくれるような要因が無ければ私は興味がない。
ただ私は現代のワインが時間経過という要因をあまり考えていないのではないかと思っている。考えていても数年という短い期間。
そしてこれは、ブルゴーニュなどには古い蔵が多いことにも起因しているように考えている。古い蔵には蔵付きの酵母やカビなどそこにワインを置いておくだけで影響を受ける要因が数多くあり、それがワインの味わいや熟成に与える影響も大きいのではないかと考える。最近の若手のワインが複雑さに欠けるのも新しい蔵が多いことも原因なのではないだろうか。それでないとブルゴーニュの蔵ごとに違う見事な個性の違いの説明が出来ないのである。
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