ブルゴーニュの魅力

私が長年愛し続けてきたブルゴーニュ。

熟成することで官能的な姿を見せ妖艶な女性から逃れられなくなるかのごとくその魔力を見せつける世界でも希な魅力を持つワインを送り出す。

そんなブルゴーニュも時代の変化、世代交代による造りの変化、そして最も人気のある地域であるが故の悲しさというか農薬や化学肥料からの脱却が進むのが遅かった地域でもある。

昔放っていた魅力はどこへ行ってしまったのであろうか。

時代が大きく変化し始めた1990年代、ルロワが率先して自然派を突き進む中、ブルゴーニュの生産者たちは変化を求めず、その動きがようやく出てきたのが1990年代後半になってきてからだ。

新しい世代の作り手たちは、昔の姿は求めずに醸造学校や海外での経験から新しい姿のワインを求め始めた。世はワインの需要も高まり、売れ残りのワインはほとんどなくなっているために長熟系のワインは求められず、早熟系のワインでないと評論家も認めないような傾向が出始め、そんな傾向が熟成の必要なブルゴーニュに大きな変化を与えた。価格だけは未だに高価なのに、これでいいのか。

他の地域のワインが大きくその存在感を高める中、ブルゴーニュの存在感は私の中でも小さくなっていく。

温暖化の影響も大きい。完熟系の葡萄を収穫することで昔に比べ酸の弱いワインも多くなった。

理想的な醸造環境であるコシュ・デュリの蔵を再現すべく醸造設備も温度管理ができるようになり、白ワインは一気に品質が上がる。

樽の品質低下もブルゴーニュ低迷の一つの原因ではないだろうか。コルクもそうだが樽に使う木材も昔に比べ品質は低下傾向にある。

しかしそんなブルゴーニュもまだまだ捨てたものではない。素晴らしい他にはないテロワール。地下の蔵に宿る蔵付き酵母や良質なカビがもたらす独特の個性。これこそがブルゴーニュを支える一つの魅力となっている。世代交代による味わいの変化は、また一つの挑戦と受け取り彼らが育つのを待つしかない。

食の変化もワインの味わいに大きな影響をもたらす。バターや生クリームなどの油分をふんだんに使っていたフランス料理も今では別物のような姿を見せている。和食の影響も計り知れず、健康志向のフランス料理はもすでに20年前の面影もない。普段の生活の中で欠かせないワインは当然こういった食の変化とともに変わらざる得ない運命にある。そして飲み水が手に入らなかったのも昔の話。今では普通にコンビニなどで水を求めることができる。これは逆にワインの品質向上の一つの原因にもなっている。

個性の希薄化がブルゴーニュの存在感を薄れさせている。そして他の地域での品質向上がそれを加速し、ラシーヌなどの優秀なインポーターがコンディションの良いワインを輸入することで、今まではその本性がわからなかったワイン、特にコンディション次第で大きく姿の変わってしまうワインも今や日本ではその真の姿を確認することができる。今ブルゴーニュは過去最大の危機といっても良い状況。しかしそれでもブルゴーニュは他にない魅力によってまだまだ離れがたいものがあるのである。

ピノ・ノワール、シャルドネを主体とした品種、単体の品種でブレンドもせずにこれだけの魅力を放つ地域は他にはない。今や国際品種となったこの2品種だが、まだまだどの地域のワインもこれに勝る姿を見せることはない。奥行き、放つ魅力が違うのだ。

古典的なブルゴーニュで今最も注目しているのがリシャール・マニエール、もうしばらくするとワインホリックにも登場するが、今までフランス国内以外はスイスにしか売られていなかった作り手で、最近ようやく日本にも登場した。私がずっと求めていた軽やかな中に魅力を宿すワインだ。ブルゴーニュはその市場をアメリカに求めたときから魅力的な姿を失い始めた。マニエールはそんな影響を全く受けなかった作り手で、いまやこれほどの本来のブルゴーニュの魅力を感じさせてくる生産者はいないだろう。ラフィネが輸入を開始したのでまもなく最高のコンディションで私たちの手元に届く。

デュジャック、アルマン・ルソーは私がもうすでに20年以上前から愛していた作り手でその当時はいくらでも手に入ったし現在のような価格でもなかった。グラスワインで普通に出せたし、それを飲んだ人たちの驚きの表情を見るのが好きだった。しかし現在では高価になり、世代交代で昔のような姿は見せてくれない。

ヴォギエは未だに素晴らしいワインを作り出す。だが残念ながら日本にコンディションの良いヴォギエはほとんど入荷しない。

そう、ブルゴーニュはコンディションが良くないと魅力の多くがなくなってしまうのである。先週飲んだユドロ・バイエとデゥニ・ベルトーも酷かった。美味しいワインであろうという片鱗は見せつけるもののコンディションの悪さでとても美味しいとは思えない。昔銀座にあった有名な酒屋もブルゴーニュの聖地のような顔をしてトーメンの輸入したワインを売っていたが、その当時私が飲んだその酒屋のワインは最悪であった。昔からブルゴーニュのワインはコンディションで悩まされていたのである。

逆にコンディションが良いことで今までのイメージを覆すような旨みを感じることのできる生産者もいる。


過去日本にはラシーヌ、フィネス、ラフィネなどが現れる前は、現地でしか美味しさを感じることのできない生産者が多くいたのだ。


さてこんな現状だが、少しずつ今ブルゴーニュの若手が育ってきている。自然派と古典派を受け継ぐものに分かれるが、全体としては農薬や化学肥料からの脱却が進み、いい方向へ向かっている。私もそんな中、いいと思われる生産者を皆様にご紹介できればと今いろいろ試している最中。やはり肝はちゃんとしたインポーターがワインを輸入することだ。そういったインポーターが育つようにできるだけワインを購入し前に進める資金を提供することこそワインショップの使命でもある。


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