熟成の可能性と魅力

このセラーはジャン・ルイ・シャーヴがレストランのために新設した熟成庫です。自分の作り出したワインがどのような熟成をしていくのか熟知した上で、熟成させる環境を持てないフランスのレストランのために作ったのだそうです。作り手がこのようなことまでするのは素晴らしいですね!


一般的にフランス人はあまり古いワインは飲まない傾向があると言われています。20〜30年前フランスの蔵で売れ残っていた古酒や、ストックの古酒を買い尽くしたのは日本。私を含めこの古酒の世界にはまった人たちは多いでしょう。フランス人は比較的新しいワインを飲む傾向にあるとされていますがそれはいったい何故なのか。一般の人たちは節約家が多いのでそういった傾向が強いのでしょう。でもヨーロッパの資産家は自分のセラーの中で熟成させている人も多かったわけで、これはあくまでも金銭的な問題であるのではないかと思います。


さて熟成の魅力とは。


昔は補糖したり補酸したりすることが多かったのですが、最近では収穫の時期をずらすことで酸と糖分、熟度のバランスを考えた収穫がされることで極力手を加えない方向性です。


熟成の魅力とはそれぞれの生産者によって違い、官能的になるワインもあれば熟成でそれほど大きく変化しないワインもあります。飲み頃とは当然熟成することによって訪れる訳ですが、最近のワインは昔のワインに比べ早熟系で比較的早く飲み頃が訪れるワインが多いのですが、それでもある程度の時間経過がワインを大きく変えてくれます。

最近のように世代交代が多く、スタイルが変化していることを考えると、昔のワインとは違うために今まで培ってきた経験則が当てはまらないワインも多いので正直予想するのが難しく、また新たにそういったワインの変化を見守る作業が必要となってきています。


最近のシャンパンを見ているとメゾンは相変わらず同じスタイルが多いのですが、これは膨大な古酒を抱えていることができるメゾンならではの安定性もあるのですが、若手や小規模生産者は古酒のストックがないことが多く、言ってみればヴィンテージごとのワインを出していることが多いのが現状。非常にドライなワインが多く、ドサージュをしない傾向もあり、熟成による魅力がどうやって出てくるのかがわからない生産者も多い。

プネ・シャルドネのような超ドライ系のシャンパンは、糖度が足りないのが原因なのか熟成するとアラン・ロベールを思い起こさせるような風味が出てくるのですが、それにはあまり厚みがなくそこにドサージュをしていないシャンパンの限界があるようにも感じてしまいます。

でもブルゴーニュのアリス・エ・オリヴィエのように超ドライで酸もきわめて強い作り手のワインでも驚くほどの熟成の可能性と魅力の出方を見ると、一概に糖度だけが熟成と関係しているとはいえないようです。

やはり収穫時の全体的なバランスと、酵母、そして醸造方法、テロワール、気候などすべてが関わってきてのその作り手の個性なのでしょうから昔と同じで熟成による変化はそれぞれの作り手の一つの個性として捕らえるのしかないのだと思います。

最近のワインは若いうちから質感の良さが前面に出ているようなワインが多く、良すぎると教科書的な優等生といった感じのワインもあり、意外と置いておいてもそのまま大きな変化をしないものもあれば、吃驚するほど良くなるワインなど作り手によって大きく違うため、結構難しい。


基本的にリーズナブル系のワインほど熟成が早いというのは正しいのですが、こういったワインはとにかくコンディションが良くなければ美味しさを堪能することはできません。コンディションさえ良ければ少し置いただけで大きな変化をもたらしてくれます。これほど変わるのかと驚くようなワインもあります。


上級クラスのワインになるほど熟成が余計に必要になってきますが、まずは生産者の特徴を把握しなければいつが飲み頃なのかを知ることができないのは昔と同じ。


日本の職人を見ているとやはり引き継がれる伝統の大切さを感じます。伝統の中で培われてきた技や技巧、深い経験値、それが誰も到達できないような世界を作り出します。

料理でも京都などの料理を食べるとあまりにも世界観が違い驚かされます。長い間その地域で住み伝統を引き継いできたからこその味わいの深さ。地元の食材で地元の水を熟知しているからこその世界観。

基本的にはワインの深さもそういった部分こそが大事なのだと思います。


最近のフランス料理やスペイン料理も星付きの店ほど底の浅さが露呈しているような料理が多い。新しい発見や目新しさがあっても、料理としての深みが足りないから納得感がないことが多い。でもこれから時間をかけてきっと素晴らしい世界へ導かれていくことは確かでしょう。


こういった伝統を引き継ぐことこそが一つの熟成であるととらえることが大事だと思います。ワインを飲んでいて思うのは表面的なテクニックや手法で作り出されているようなワインは面白くない。ジュースや缶コーヒーのようにいつでも安定した美味しさを提供するような世界もある意味必要ですが、食とワインの世界においてはそこに感動を求めると底の浅い世界とは隔絶された世界でないと面白さがない。

底上げされすべてのものがある程度の水準まで来ている現代では、「これでいいだろ」となんとなく満足することができてしまう世界。表面的な世界で満足することができる世界では、実は大きなストレスが生まれてくるような気もします。効率化という名の下に誰もが享受できるような世界と、職人による深い世界とは全く違うわけです。

ワインの世界でも今までワインに全く携わっていなかった人が素晴らしいワインを作り出している例もあります。それができたのはその人の熟成度の違い。明確な目的意識と鋭い観察力。伝統を引き継ぐと言うことだけでなく人間としての熟成度も非常に大切です。

評論家の意見も参考にはしますが、やはり素晴らしいワインはちゃんとしたコンディションでその作り手の真意がわかるような環境で探すことが大事。ワインの世界には変質していないからこそ、その本質がわかるようなワインも多く、熱廃しているのが当たり前のような現在のワイン業界では本質を見抜くことができないでしょう。

新鮮な魚、初日は刺身で2日目は焼きで3日目は煮物で。でも焼き物でも煮物でも本当は新鮮な魚の方がいい。かといってちゃんと熟成させた方が美味しい刺身もある。

どちらにしても新鮮でちゃんと管理された魚がいいに決まっています。ワインも全く同じなのです。


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PUR SANG

美味しいワインがなかなか見つからない、ワインのことが今ひとつよく分からない、美味しいワインを探したり美味しく楽しむためのテクニックを学んでみて下さい。

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