ワインにとって何が大切なのか
皆さんはどこでワインを飲んでも同じワインだったら同じように感じますか?
私も今まで何度も同じワインを違うお店や場所で飲んできましたが、いつも若干の違いを感じたり、全く違うワインに感じたりしてきました。一体何故このようなことが起こるのか、長年それを解明しようとしてきました。
ワインを所有している人の管理の違い(購入したワインショップ、輸入したインポーター、ワインセラーの違いなど)ワイン自体の瓶差、コルクの差、飲む場所の違い、温度の違い、ワインを楽しむときのグラスの違い、一緒に楽しむ人の差、自分の体調、考えられることはいろいろあります。
しかしほとんど同じようなワインだったら、飲む場所が違っても「あ〜こんな感じ」という同じような印象を持つことも多いのです。
でも実はこのような印象はワインの持つ大きな要素が誇張されたときほどこのような印象を持つのです。
つまり美味しいと思える大きな要素を持ったワインほど、同じ印象を持てる可能性があるといえます。世の中で有名なワイン、万人に愛されるようなワインははじめからこのような要素を持っているのです。そのワインには質感に優れ本質的な部分で美味しいと思われる要素を持つ場合と、人為的に作られたものとがあります。
さて皆さんはワインの作られたワイナリーに行ったことがあるでしょうか?
自分の好きなワイン、その作り手のところに行ってワインを飲ませてもらうと、自分が思っていた印象よりもっとおとなしく、印象が違って感じられたのではないでしょうか。
実はこの差が、市場に出たワインと作り手の元にあるワインとの差なのです。
ワインは特定の作り手によって葡萄が栽培され、醸造、瓶詰め、管理されています。一人一人の作り手によって栽培手法も畑の環境、醸造法、出荷されるまでの管理(温度、蔵の環境)も違います。ですからワインとはそのすべての要素が合わさってその作り手の特徴が生まれるのです。
ところがワインが市場に出ると、東京に住んでいる私が急に全く見知らぬところに急に移住させられたような状況にさらされるのです。車で遠くまで運ばれ、船に乗せられ赤道をこし見知らぬ地にやってくる。人間でさえもこのような状況に置かれたらどぎまぎしてしまいます。
ワインも今までと全く違う環境で運ばれてくるわけで、その過程次第では大きな衝撃を受けてしまいます。そして輸入した業者からワインショップへと運ばれ、そこで管理されたワインが皆様のところに届く。そしてまたワインラヴァーによってワインは管理され抜栓される日を待つ。
この課程を出来るだけ今までと同じような環境を保ちながら管理されるのと、大きな試練を受け運ばれるのとは大きな違いがあるのです。
ワインを完璧な状態で飲みたいのならば生産者の元に行って飲むべきです。いくら壊れないように運ぼうと思っても生産者の環境はそれぞれ違うために全く同じような環境ですべての生産者のワインを運ぶことは出来ません。ですから優秀なインポーターでも独自の観点で出来るだけすべてのワインが壊れないように運び管理しています。ですからインポーターによって育ちの違いのように感じる差が出てくるのです。育ちが悪いワインもあれば、育ちが良く感じるワインもあります。それがまさにいインポーターの違いなのです。全く同じことがワインショップにもいえます。そして最終的にワインを管理する皆様のワインセラーにも同じことがいえるのです。
前述で述べたワインの持つ大きな要素、ワインは輸送過程、扱い方で劣化するほど細かい要素が壊れ大きな要素だけが残ろうとします。大きな要素も細かい要素が破壊されることで変化します。世界中で楽しまれているワインはほぼこのような要素が誇張された美味しさだと言うことが出来ます。
でも実はワインにはもっと素晴らしい要素が秘められているのです。このことをわかるためにはワインのコンディションに関してもっと掘り下げて行かなければなりません。
例えばコンディションの良いワインは、素晴らしくエレガントで細かい要素が一つになって全く違う世界を感じさせてくれるのです。大きな要素が誇張されていない分、大きなインパクトを感じることがないことが多いので、大きな印象を期待している人には物足りないかもしれません。
しかしよく落ち着けることで分子の安定した状態にあるコンディションの良いワインは壊れていない多数の要素がひとまとまりになり、なんともいえない上品な世界を形成してくれます。実はこのことを感じることができている人は世界中にもそう多くないのです。
世界中どこに行ってもワインはセラーに入れられずにスーパーに並んでいるワインのように温度管理もされずにそのまま置かれているのが普通です。デパートに行ってもそう。ワインショップでも店頭の温度を低く管理してそこにそのままワインを置いているショップもありますが、人の出入りによって店内はどうしても大きな温度差にさらされワインは変質していきます。とても生産者の蔵のような状況には出来ないのです。セラーに入れられているワインもありますが、そのセラーによっては振動が多く落ち着いていないような状況にさらされている場合もあります。振動のない生産者の蔵とは大きな違いがあります。
つまり残念ながら本当にコンディションの良いワインを手に入れられる環境は全然整っていないのです。
飲食店でも同じ。ほとんどの飲食店がなにがしかの問題を抱えています。最近は安くワインを飲むことの出来るような飲食店が多くなってきましたが、泡や白ワインを冷蔵庫で管理しているお店がなんと多いことか、業務店の冷蔵庫は驚くほど振動が大きいのです。セラーもカウンター内などに置いてあるとセラーにとっての環境が厳しく(非常に温度が高い)振動を発してしまう程にフル活動しているセラーが多いのです。古いセラーも振動が問題です。店内に大きな部屋のようなセラーも空間が大きく温度差を発生させやすい空気が沢山あるために冷蔵設備の温度差がそのままワインに影響を与えてしまいます。
このような状況を見ていくといかにめんどくさいかがよくわかると思います。諦めるのは簡単ですが、私たちは決して諦めません。インポーターも私たちも日々努力し20年前から比べると遙かに状況は良くなってきました。非常に手間がかかることなので途中で諦めてしまう人もいますし、コストがかかりすぎ倒産してしまうインポーターやワインショップもあります。ですからすべてを考え生き残っていくこともこれからのワインのことを考えるととても大切なことなのです。
ワインはいくら評価の高いワインを買っても、どれだけ有名なワインを買っても、どんな有名なワインショップで買っても、本当の姿で楽しむことがいかに難しいのかはよくわかっていただけたともいます。特に有名なワインほど売れるが故にいい加減に扱われることが多いのです。
ワインの世界とは自分からワインの持つ要素を探しに行くのではなく、語りかけてくる要素をいかに感じられるかが重要なのです。つまり語りかける要素が少ないワインほど問題を抱えていることが多い。まさに人間と同じなのです。
一般的に皆さんがご存じのワインの常識とは、コンディションが良くないワインをいかに美味しく楽しむための現実的な常識です。コンディションの良いワインにとっては真逆とも行っても良い常識なのです。少なくとも今日本を発信点にして状態の良いワインを楽しめる環境造りが始まろうとしています。あと何年かかるかわかりませんが次第に状況は良くなっていくはずです。ぜひ新しい常識を知ってもっと美味しいワインの世界を知ってください。
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