ワインを価格だけでみるとどうなるのか

私がワインをお店で売り始めたのは、今からもう30年近く前である。 その当時からすでに私はどこで買えば満足のいくワインがあるのかということを常に調べていた。輸入元、酒屋によって驚くほどワインの美味しさが違うことをわかってきたのだ。 昔のワインは確かに今のワインより大柄で多少の劣化には強かったのだが、それでも驚くほどの違いがあった。ただその当時は今ほどの経験値もなくワインはロットによって差が出るものという認識だった。その当時のワインは今でもそうなのだが、蔵出しかワイン商からでたものなのかが定かでないものも多いために、どの同じ銘柄の同じヴィンテージのワインでも蔵出しでさえ出荷の時期が違うと味わいが違った。 昔は古いヴィンテージのワインの方が安く、新しいワインの方が高かった。つまり古いヴィンテージのものは余り物ととらえられていた傾向がある。 今となればその頃は夢のような世界であったのだが、現在では平行ものはよっぽど注意しないとコンディションが悪いために買えない。ヨーロッパの温暖化、ワインビジネスに新しく参入する経験不足の人たちのおかげでワインの世界は需要が高まるにつれて大きく荒れていったのだ。一部の人たちに守られていたことである程度品質の保たれていた世界が、需要の高まりと共に大きな狂いが出てきたのだ。 もともとワイン商と言えばイギリスを中心にオランダなどが力を持ち、価格決定に対する力も大きかった。だいたいワインに対する知識自体もほとんど世間には知られていなかったためにワインの世界はほぼイギリスに仕切られていたと言っても良い。 未だにワインビジネスに必要な資格はイギリスが牛耳っていると言っても良い。 ところがこれを大きく変えたのは、アメリカ人のロバート・パーカーなのだ。彼がワインの知識をオープンにしたために市場は大きく変わった。私もその恩恵にあずかった一人なのだが、そのおかげで今ではワインの知識は調べさえすれば誰でもわかるまでになってきた。そしてそれがワインの価格破壊につながることになる。しかし価格破壊と言ってもその被害を受けたのはインポーターと酒屋である。そして自滅していったのも販売する側なのである。 世の中商売をする際に最後の手段が価格を安くすることである。ところが規制によって守られていた酒販店業界は規制緩和による新規参入により価格破壊にさらされ、誰もが利益を圧迫する一番簡単な方法をとった。そして今では安いことが良心的であるがのごとく思われているのである。確かにお酒の中では高価なワイン、インフレで価格の上がる海外なのに、日本はデフレ。ワインの価格は上昇一方。それがまた拍車をかけワインの利益率は減っていった。レストランも私たちのようなネットのワインショップが増え誰でもが販売価格がわかるようになったことで価格を下げざるえなくなり、利益率は圧迫。もうかなり厳しい業態となった。 インポーターがワインを輸入すると一斉に売り出すのでどこの酒屋も一斉に売り出す。そうなると価格競争は一段と激しくなるのは当たり前。 こういった状況が現在の厳しい業界を作り上げていったのだ。 ところがワインの世界とはこういった状況が一番似合わない世界なのである。特に日本では良いものを良いものと認める文化があったのにそれを失ってしまった。いや、失いつつある。お金を持つものはその本質を知ること無く見栄で買い求める。 有名銘柄のみを信望する姿こそその代表的なものだ。それが故にコンディションを無視し有名銘柄のみを買い付けワインショップが多いのだ。 そうなると売れるワインとは有名銘柄か、他よりも安いワインと言うことになる。 怖いことに有名銘柄はその面影がかすかに残っているだけでほとんど美味しくない。ワインホリックの安いワインの方が美味しく感じるのだ。これがコンディションの怖さである。 熟成と腐敗を勘違いし、普段しない腐敗した香りを熟成香と感じる。当然個人的に良いと思ってしまうのだからそれはしょうがない。しかし山のように熟成したワインを飲んだ私にとってはくず同然なのだ。 同じワインでも扱い方で天地の差があるのに価格差は実はほとんどないのが現状だ。それだけコンディションの価値を知らない人が多いのだ。腐っていても健全でも同じ価格か僅かな差だけ。まったくやってられません、、というのが私たちの正直な気持ちだ。 しかしこんなことを10年もやり続けているとそういったことをわかってきてくれる人も増えてくる。だからこそ今私が生き残っているわけだが、それでも勘違いしている人は沢山いる。 実は今だから暴露するが、福袋などを出すとさんざん非難されたことがある。原価もしくは原価割れで出しているのに市場価格を調査し一番安いワインと比べそれほど安くないとクレームを付けるのだ。全くもってワイン業界の仕組みをわかっていない価格でしかワインを見ていない人の典型だ。 正直恥ずかしくないのかなと思うが真剣に文句を言ってくる。まるで市場の代表であるかのごとく、そして自分さえ良ければ良いという感情が見え隠れする。 ワインをコンディションの良さで買い付けると当然市場より高いものもある。市場ではいつそのワインを売り出したかわからないので特に楽天などでは昔売り出した情報もしっかり残っている。 そんなのと比べて文句を言われるわけだからたまったものではない。酷いときには楽天から退場しろなどとさえ言われたこともある。直接販売ではない間接的な販売だから好き勝手言うわけである。まさに2チャンネル状態。 まあそれが今の日本のワイン業界だから諦めざるえない部分もあるが、正直そんな人たちはワインホリックに近づいて欲しくない。その後は福袋を売る際にコンセプトをしっかりと書くことにしたので文句も出なくなった。倫理で動くのではなくルールで動くところが現代的ともいえる。穴があればすぐ突いてくるのである。もともと福袋は通常商品を買っていただいている方のために出しているわけで、福袋しか買わない人など客とはいえないのであるが。 しかし文句を言ったところでそう簡単に流れは変えられないし、その責任の一端はワイン業界にいる私にもある。結局は大きな流れを未だに変えられていないまさに私たち側の力不足が原因だ。 そして今まで書いたことが販売する側の感じる市場の現実の一つである。 日本では面白い現象があり、有名銘柄を平行もので入れると当然中間マージンや海外での価格動向もあるので蔵出しで輸入する日本のインポーターよりかなり仕入れ価格が高い。当然販売価格も高いわけだが、それでも売れるのだ。海外勢には利益をやるが日本国内では虐めあう傾向がある。 それともう一つ気をつけなければならないのは、海外勢にとって日本はゴミ箱になり得ると言うことだ。実は昔ワインを買っていてそれを感じたことがあるのだ。コンディションが落ち始めた1990年代、日本以外の亜細亜経由で常温で放置されていたワインが日本で出回っていたことがある。当然安いからという理由で日本のインポーターが購入したわけだがこういったことが今でも少なからず行われている。自然派が流行っている現状では、失敗してしまったワインでも日本が買ってくれたという話が入ってくる。まさに日本が自らがゴミ箱化させているのである。また最近では有名ワインに偽造品が多くなっておりこれにも注意が必要だ。 特に海外勢はワインのコンディションを保つと言うことに関しては無頓着なのでそういったワインを買うこと自体問題がある。そして日本には形からという伝統がある。それが悪い方にでると、とりあえず船便だけリーファーにして形だけ整える。ところが他のところは定温で運ばないために船だけリーファーにする意味があまりなくなる。つまり顧客を結果的に欺していることが多いのだ。こういった現実を知ってしまうと一体今まで飲んでいたワインは何だったのだろうと思う人も出てくると思う。実際にコンディションの良いワインの違いを知って今までコレクションしてきたワインが全部駄目だと言うことを知って愕然とした人も多い。 どうであろう。ワインを価格だけで見るとこのような状況を無視することになるのである。それでも安い方が良いという方はそれを買えば良い。気がつかなければいつまででも幸せでいられるかもしれない。    


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PUR SANG

美味しいワインがなかなか見つからない、ワインのことが今ひとつよく分からない、美味しいワインを探したり美味しく楽しむためのテクニックを学んでみて下さい。

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