古典的ワインと現代的ワインの違いを検証する

私たちが昔楽しんでいたようなスタイルのワイン、熟成すると官能的になりその姿に我を忘れるくらいはまりきった世界。今でも懐かしく感じます。


今だから明かしますが、昔サヴァサヴァというバーでその当時では珍しい特別に作ったワインセラーを設置し極めて素晴らしい熟成したワインを沢山揃えていました。


その当時はカウンターでワインを楽しむということはほとんどなく、ワインは食事と共にというイメージだったので当初はワインを出すことに苦労しました。

しかし知り合いを中心に徐々にワインが出始め、カウンターでワインを飲んでいる人たちを見た初見のお客様達も徐々にワインを楽しむようになってきました。当然その頃はグラスワインはなくほとんどがボトルで飲む感じ。


その当時私は輸入も手がけるとある酒屋さんだけからワインを買い付けていましたが、そこのワインは明らかにその当時日本で最も状態の良いワインの一つでした。特に熟成したワインの品質が素晴らしかったのです。銀座などにも有名な酒屋さんがありましたが、状態が酷くよくこんなワインを高い金を払って買うなとちょっと呆れていたのです。


その当時は現在ラシーヌの合田さんがいらした八田商店、そして現在フィネスの社主である藤田さんがいた富士発酵、現在のヴィナリウス、当時はエノテカワインセレクション、ここだけが状態の良いワインを輸入していましたが、熟成したワインが数多く入手出来るので正直あまり関心がありませんでした。


ボトルでワインを開けたお客様は、一口飲んだだけで確実にワインにはまり今まで見たことのないような世界にすっかりとはまりきってしまったのです。当然その当時とはいえ、普通のお酒を飲むより価格が高いので会計時は明らかに顔が青ざめていく姿は「あ〜もう二度と来ていただけないな、、」という感じでした。ところがその方はなんと確実に次の日もいらしてくださったのです。その当時はワインだけではなくモルト・ウイスキーを中心にはまってしまう酒がよりどりみどりといった感じでまるで麻薬の巣窟のような世界。


そんな世界が3年も続いたあとにヴァン・ヴィーノ・ブリュレを開店。

最初はほとんどワインだけで一体大丈夫なのだろうかと思っていたのですが、数ヶ月もすると大盛況。


そんな時代を経験してきただけに、現代のワインに徐々に移っていく際はかなりの違和感がありました。ワインをやめようと思ったことすらあります。

かといって昔のようなワインは2000年代に入り極端に状態が悪くなり、良いワインもほとんど飲み尽くされ残っているワインは私にとってはくずばかり。


さてでは現在はどう感じているのか。蔵出しで比較的昔のイメージを持っているワインを飲んでもまず懐かしさしか感じることができません。くらくらするようなワインがほとんどないこともあります。昔極端に女を増幅するような香水プアゾンなどの香りで女性に引きつけられたようなワインはもうないのです。でももしそんなワインが出てきてもそんなにくらくらすることはないと思います。


しかし今でも最も印象的なのはまだ農薬がそれほど使われていなかった1930年代から1940年代のワイン。ドクターバローレコレクションや、シュヴァル・ブラン、トロタノワ、これからのワインは当然造りは現代的な醸造法ではありませんが、これぞ古典の自然派といわんばかりの驚くべきワインでした。


現代のワインはフレンチが古典から現代に変化したような劇的な変化を感じます。昔のフレンチは、バターと生クリームをたっぷりと使い、塩分も強くカロリーが高く量も喉まで食事が詰まっている感じでした。ところが現代のフレンチは健康的になり量も少なめ。


健康志向がワインの世界も大きく変えたのです。


自然派志向もそういった変化から生まれ、原点回帰と最新の醸造法によってワインの世界は大きく変わったのです。そういったワインは昔のワインとは大きく違い、官能的とか複雑な味わいの世界とは全く違う世界。質感追求の世界です。


自然派のワインを率先してリードしてきたルロワはお金をかけまくり高価な自然派ワインを作り上げました。これ以上ないと思えるほど指針となるようなワインを作り上げましたが、残念ながらその真の姿を日本で感じることはなかなかできません。これがワインの輸入と管理の問題であることは明らかですが、そういった過程で改めて輸入管理と日本でのワインの管理の重要性が明らかになってきたのです。


昔のように状態がちょっとだけ問題がある方が熟成感が出ていいなどと言うことはなくなり、ちょっとでも状態に問題があると美味しさが飛んでしまうのが現代のワインです。昔より繊細で旨味と呼べる要素が少ないのにもかかわらず、魅力がちょっとでも飛んでしまうととても美味しいとは言えない状態になってしまいます。それにもかかわらず、状態が悪いワインが氾濫しているのは、そういったワインしか知らない人が多いこともあります。


私もそのことに気がつきそういったワインばかり飲んでいるうちにすっかりと味覚が変わり、今では昔のワインを飲んでもぴくりともしない、懐かしさしか感じなくなってきました。こういった感覚の変化に10数年を要したのが現実です。


世の中の変化と主に大きく変わったワインの世界。しかしそれは食事も香水も全ての世界で同じような変化をしているのです。コンピューターやスマホによってコミュニケーションが大きく変わり、昔のように酒場でコミュニケーションをするという感覚も無くなってきました。


現代のワインはまだまだ発展途上ですが、ここ数年、ただ綺麗なワインを作るという感覚から深みや明確な個性が感じられるワインが増えてきています。どうやったら更に素晴らしいワインを作ることが出来るのか、今までの常識を越えた解明されていないようなことがわかり始めています。それと同時に現代的な世界がいかに自然を害しているのかもわかってきました。


自然派のワインを勘違いして劣化させて腐敗した状態の自然派ワインが美味しいと勘違いしている人たちもいます。そういった香りや味わいにはまってしまうのは飲み手の趣向なので別に良いのですが、自然派ワインをそのような勘違いして扱うのはまともな感覚を持っている人たちに悪い影響を与えることは否めません。


私もここ数年南アフリカの素晴らしいし自然派ワインを知ったり、新たな経験をすることによりワインの世界を改めて見直しています。そういった意味でまた新たに面白いと思い始めたワインの世界。作り手達が今後どのような変化をし、新しい感覚を持った優れた生産者が出てくるのが楽しみでもあります。


そして自然派ワインも熟成によって新たな世界を見せてくれることもわかってきました。変わり続ける現代のワイン、皆様と一緒に楽しんでいければと思っています。


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PUR SANG

美味しいワインがなかなか見つからない、ワインのことが今ひとつよく分からない、美味しいワインを探したり美味しく楽しむためのテクニックを学んでみて下さい。

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